中国茶筆記

中国の「青森リンゴ」とインドネシアの「凍頂烏龍茶」

 つい先日、テレビのニュース番組で、中国のリンゴ農家が「青森リンゴ」という名前を商標として登録して日本に輸出しており、“本家”の青森県のリンゴ農家が困惑しているという特集を見た。
 それを見ていて、台湾でインドネシア産の凍頂烏龍茶を飲んだことを思い出した。

 2年前、台湾へ茶づくりに行ったときのことである。台北の空港へ降りたってすぐ、ロビーの売店へ行った。なにかめずらしい食べ物があれば試してやろうという目当てである。(悪い癖だ。)
 缶入りの凍頂烏龍茶を売っていたので、日本でもペットボトルや缶で新製品の茶が出れば飲むからにはなんぞためらわん、いざ台湾の缶入り茶の味は如何にと一本買って飲んでみたところが、なんと甘かった。驚いて裏を返してみれば糖分が加えられていた。
 もっと驚いたのは、生産地表記の欄に「印度尼西亜」、つまりインドネシアとあったことである。凍頂烏龍茶は台湾の凍頂山周辺で作るから凍頂烏龍茶である。いつの間に普通名詞になったのかとたまげた。
 偶然は重なるものらしい。茶づくりを終えて帰国して、知人から妙なことを聞いた。中国へ旅行したときに、福建省かどこかで金萱茶を売りつけられたという。
 金萱種は本来の名称を台茶十二号といい、台湾の茶葉改良所が作り出した品種である。つまり台湾の茶(青茶・半発酵茶)である。それを大陸中国で買わされるのも変な話である。金萱茶は金萱種という種類の茶樹からつくるからこの名がある。だから中国で栽培・製造しても別に不思議はないといえばないが、台湾で西湖龍井茶(※注1)
を売りつけられるのと同じぐらい違和感があるのは確かである。
 (ちなみに偶然はまだ続いた。この話を聞いたあと、ベトナム産の翠玉を見た。翠玉も台湾の青茶である。原木は翠玉種、別名台茶十三号。)

 だがインドネシア産凍頂烏龍茶は、考えてみればありうべきことだった。
 凍頂烏龍茶は、台湾の内外において茶藝(第3回参照)で一番よく使用されるはずの銘柄である。いわば定番である。内外の消費量も多い。ところが台湾の南投県で製造されるのこの茶は、たとえば県内の主要な産地である鹿谷郷で年間産出量200トン、名間郷で5,000トンほどしかない。全県で7,000トン前後である。これは台湾全土の青茶生産高4万トンの約4割に当たる量だ。供給が需要に追いつかないのだろう。

 インドネシアの凍頂烏龍茶、甘みがなければ結構いける味だったと、今にして思う。 そこで、たわむれに考えた。
 本来茶は、自然の作物として、産地・季節(年に4回茶摘みを行う)さらに製造者によって味や香りが異なって当然である。だが凍頂烏龍茶などは定番である以上、四季はおろか年をこえてつねに同じであることを要求されることもあるだろう。いっそのこと、類似の種類の青茶を必要に応じて混ぜて、風味を平均化すればどうだろう。あたかもブレンドコーヒーのようにである。そして、そのなかにたとえばインドネシア産の凍頂烏龍茶も混ぜる。
 不謹慎だと怒るなかれ。故・開高健氏がある対談で、フランスの安いワインにはアルジェリア産の安物を混ぜているものがあるが、かえってコシができてうまくなる場合があると述べていた。同じことが茶についても起こるかもしれない。思いもよらない化けかたをすることもありうる。



※注1
 西湖龍井茶は中国浙江省杭州で作られる緑茶。この名称は地域が西湖周辺のみのものと厳格に規定され、それ以外の場所で作られるものは杭州龍井茶もしくは浙江龍井茶と表示しなければならない。
(2003/10)

 

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