東瀛小評  


『続・中国人と日本人―ホンネの対話』 まえがき

                     林思雲/金谷譲 『続・中国人と日本人―ホンネの対話』 (日中出版、2006年5月20日発売予定)所収

  本書は、前作『中国人と日本人――ホンネの対話』の続編である。日本で工学博士号を取得後、日本企業に勤務するかたわら文筆家として在日中国語メディアにさまざまな分野の文章を発表している在日中国人、林思雲氏と、大学で中国史を学び、現在は中国語ほかの翻訳を業としながらおなじくインターネット上で中国・日本関連の文章を発表している日本人の私、金谷譲が、日中の相互理解を阻んでいる両国文化や価値観の違いをめぐって電子メールで交わしたやりとりがもとになっている。
  本書は、そのやりとりを取捨選択・再構成して、中国と中国人の「いま」を林氏に語ってもらうことを旨とする第一部、日中関係が戦後最低と言われる状態に至った現在の情況を中国側から分析する第二部、そしておそらく関係悪化の最大の原因のひとつであるところの、中国人の日本像と現実の日本像の間に存在する甚だしいギャップの存在と、そのギャップを生み出している日本人と中国人の文化意識の違いについて考える第三部としたうえで、さらに最新情報などの加筆修正を加えてでき上がったものである。
  本書は、基本的に前作の文化論としての視点を受け継いでさらに深める方向を取っているが、しかし異なる点もある。 まず、両国関係の最近の情況に鑑みて、時事問題を題材として取り上げ、その分析と評価に重点を置く、いわば時事論的な性質が前作よりも強くなっている。  
  次に、この続編では、「ここがこう違う」という指摘だけにとどまらず、「だからどうすべきなのか」にまで踏みこもうとした(ただし成功しているかどうかは、読者の判断に待つほかはない)。
  さらに、この続編には、もともとの「対話」にはなかった林思雲氏の「序言」、私金谷の「後記」という独立の文章が、冒頭と末尾に置かれている。
  「序言」は、もとは林氏がインターネット上で発表した評論である。日中関係を考える際に欠かすことのできない要素である中国人の「避諱」概念、およびそれに基づく中国人の行動様式を、日本人にわかりやすく説明するためには格好の内容と判断して、「対話」の冒頭に置くことにした。 
  末尾の「後記」は、日本人側から見た今回の「対話」の総括である。これは編集作業の段階で書きおろされた。「対話」を締めくくると同時に、感情的・政治的に対立するいっぽうで経済的には互いに不可欠なビジネス・パートナーであり、なおかつ地理的には永遠に隣人同士である日本と中国が、今後どのような関係を構築すべきか、そのために日本人と中国人はなにをすべきかについて、戦後生まれの一日本人として、ささやかながら提言を試みたものである。
  前作同様、もともと率直ではあるが個人的な意見交換にすぎなかった私と林氏の日本語と中国語による私的な「会話」が、日本と中国両国の今後のあり方に関心を抱く日本人の読者を対象とした「対話」となり、書籍として日の目を見ることができるようになるにあたっては、日中出版の飯塚豊明編集長からいただいた様々なご助言と激励によるところが大きい。最後になったが、飯塚氏に対して、この場を借りて厚く御礼申し上げたいと思う。

  二〇〇六年四月

  金谷譲
inserted by FC2 system