東瀛小評

それとも言いがかりは承知でとにかく人と異なることを言って注目されようという売名行為か

著者注。この文章はもと「Owl's viewpoint」用に書いたものであるため、表現が「です」「ます」調になっている。

HKの『プロジェクトX』というドキュメンタリー番組があります。日本の現代を作り上げるのに貢献した人々とそのひとびとが成し遂げた事業を取り上げてその苦闘や苦労を讃える内容です。人気があるそうで、4月に2年目に入りました。
 この文章を書いている日(5月15日)には、日本で初めての超高層ビルを建設した人々が取り上げられていました。地震国日本で高層ビルを建てるにはアメリカなどの先進国の技術は参考にできず、しかも最初からそれをあてにすらせずに自分たち日本人だけでゼロから作り上げるのだという設計者と施工者たちの凛烈たる心意気を知って感動、というより粛然としました。そして、それを実際に組み立て、建てた現場の鳶職のひとびとの並大抵でない苦労も知りました。

 もはや数ヶ月前にもなりますが、この『プロジェクトX』を批判するエッセイをある新聞でよみました。大意こうでした。現在の日本が閉塞しているのは、個々の人間の力ではどうにもならない原因のためである、それをこの番組は努力すれば問題は解決するかのようにいう。
 どうせやっても無駄、世の中なんてよくなりっこない、それがわからぬ蒙昧なやつらを持ち上げてどうするのかといわんばかりの調子でした。

 最初にいいましたが、この『プロジェクトX』は個々人が全力を尽くしてなにごとかをなしとげた事実をとりあげています。反対にいえば、努力すれば解決できた問題を取りあつかっているのです。この批判は的はずれではないでしょうか。
 そして、この番組が取り上げる諸問題に取り組んだ人々には、その問題がはたして解決できるのかはわかりませんでした。当時は人力では解決不可能な難事と見えていたのです。
 『プロジェクトX』のテーマとなる様々な事業が成し遂げられることのできたのは、あくまで結果です。しかも、必死で可能性を模索しその可能性の実現に人智を尽くした結果でした。
 私は、この番組の趣旨は、かつて日本人が持っていた明日への希望の大きさと、そのための営々たる営みと、そしてそれを支えた心の張りを伝えることだと勝手に考えています。そしてこの番組の人気もここにあると思っています。
 批評子のいう現在日本の抱える問題も、まずやってみなければ始まらないのではないでしょうか。すくなくとも、何もしなければ解決しないのはたしかです。

 そもそもです。明るい明日を信じて頑張った人々たちの夢と努力を否定する権利が誰にあるのでしょう。すくなくとも、高みから「どうせ無駄だ」と汗を流している人間を見下ろして冷笑する輩にはないでしょう。

(2001/3/25)
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