東瀛小評

好きな国、嫌いな国

務省が外国人労働者受け入れの政策を変更して、受け入れ業種を大幅に拡大し、就業期間を延長する方針を打ち出しました。日本が突入しつつある高齢化社会に備えた、外国人労働者の積極的な受け入れへの転換を意味します。朝日新聞の1月14日付け報道によれば、とくに今回の見直しでは、人手不足に悩む農業などが対象業種として想定されているようです。
 今回の見直しでは、「技能実習」という制度があらたに設けられることになりました。同じく朝日新聞の報道に従えば、外国人が1年間の研修後、現場でより実践的な技術を習得する制度で、期間は2年間だそうです。
 偶然のタイミングかどうか、その前日に国連が日本の今後発生する労働力不足についてまとめたレポートが発表されたという報道がありました。それによれば、近い将来日本は出生率の低下による労働者人口の減少により、毎年60万人の働き手が不足するというのです。そのレポート結果にしたがえば、日本は不可避的に外国からの労働者に門戸を開かざるをえなくなります。
 ここで思い出すのは識者といわれる人々の間で、数年前まで外国人労働者を受け入れるか絶対拒否かという二つの立場で交わされた喧喧諤諤の大論争です。
 しかし、日本の高齢化社会化も、多少の数字のずれはあるにしても将来の労働人口不足も、ふたつとも避けられない未来として当時すでに常識となっていました。
 いまにして思えば、これらの人々はよほど暇だったのでしょう。暇だから変更不可能な事態の出現に反対したり賛成したりという無意味な遊戯をしていたにちがいありません。
 大量の外国人が日本に長期滞在する際にどう社会が受け入れるべきかや、予想される異文化摩擦、差別の問題に日常レベルでひとりひとりがどう対処するかを考える時期が迫ってきました。「国際化」というばくぜんとした口頭禅をとなえていれば何となく毎日をやり過ごして行けた時期はまもなく終わります。毎日の生活に直接関わってこなかったから、抽象的な美辞麗句でことはすみました。そもそも、英語を喋ることがどうして国際化なのでしょう。日本でもっとも接触の可能性のつよいのは韓国、北朝鮮、中国・台湾、そしてロシアです。「国際」が文字通り「自他の国の際(国境)をこえる」ことであれば、地理的にいってまず第一に日本人が習得すべき外国語は、韓国・朝鮮語、中国語(できれば中国の諸方言も)、ロシア語のはずです。
 こんな根本的な錯誤がそれほど問題にもならなかったのは、言うほうも聞くほうも所詮どうでもよいことだったからです。
 ともあれ、これからは隣人が言葉も通じず、生活習慣も全く違う他民族である時代がやってくるのでしょう。せめてそれまでには、「あなたの好きな国はどこですか、嫌いな国はどこですか」式のアンケートは廃止されて欲しいものです。隣の国を嫌いだとしてその国をよそへ移動できますか?
 外国とのつきあいは、好き嫌いのような幼稚な感情の次元で判断すべき問題ではないでしょう。好きでも嫌いでも現実は現実として正確に見据える精神の強靱さを身につけること、これが「国際化」の第一歩ではないでしょうか。第二歩はその現実のもとで可能な対応の選択肢を見いだすことです。

 注記。もともとこの文章は"Owl's Viewpoint"用として書かれたものであるが、内容からして「東瀛小評」へ載せるほうが適切であると判断した。言葉遣いが「です、ます」調であるのはそのためである。ご了解ねがいたい。


(2000/1/18)
inserted by FC2 system