東瀛小評

北朝鮮のミサイル

国の国務省は9月14日、北朝鮮によって8月31日に打ち上げられたのはミサイルではなくて衛星であると発表した。これに対して、日本は疑問の余地があるといい、韓国では依然としてあれはミサイルであると主張している。これは韓国軍部全体の意見であるという。(CNN (AP), September 14, "South Korean defence minister: North Korea's rocket was a misile")もちろん北朝鮮は最初から衛星の打ち上げであるといっていた。
 国務省スポークスマンのジェームズ・ルービン氏によれば、北朝鮮は「非常に小さな衛星」を打ち上げようとしたのだが、失敗した。(CNN, September 14, "US now believes North Korea launched a satellite after all")
 この出来事は最初からよくわからないことばかりである。まず発射の直後に各国の発表が衛星だったり、ミサイルだったりとバラバラだった。日本と韓国がミサイル説で沸き立っている間、アメリカはなぜか断定にあいまいな態度をとり続けていた。中国の態度も奇妙だった。衛星かミサイルかの判断を明確には表明しなかった。衛星にせよミサイルにせよ、北朝鮮が周辺国に予告なしに発射した行動と、発射後しばらく沈黙を守っていた点もおかしい。というよりも、報道が錯綜した原因の一端はこの北朝鮮の態度にあるのだが。
 そしてもっとおかしいのは、太平洋側に落下した発射ロケットの第三段目をだれも探してみようとはしない点である。それを見てみればミサイルか衛星かがはっきりするか、すくなくともこれまでのただの憶測を裏付けるあるいは否定する強力な証拠となるにちがいないと素人でも思うのだが、それをしないとはどういうことか。証拠もなしに日本を含めた各国はずっと憶測を並べ続け、日本に至ってはその憶測に従って対北朝鮮外交政策を変更しようとしていることになるわけだが、そんなことはありえない。
 上掲CNNのルービン氏の発言の報道記事では三段目ロケットを探さない理由につき、一説として米国の関係情報機関が「落下した地点を突き止められない」からだとしている。考えられない話である。発射後すぐに(あるいは発射する以前から)米国はこのロケットの動向を捕捉していたはずであるから、行き先がわからないというのはありえないだろう。たとえ途中で視界から消えてもそれまでの進路やスピードから落下地点は算出できるはずである。これがわからないというのならば、あらゆる民間航空機事後の飛行機はすべて墜落場所がわからないことになろう。
 要するに、常識で判断して、報道されない以上の事情が今回の事件にはあると考えざるをえないのである。
 ちなみに、日本側が最近いう、「たとえ衛星であったとしてもそれを打ち上げるロケット技術はミサイルと原理は同じであり軍事的に転用できるものであるから、北朝鮮が日本の安全にとって脅威であり、今回の出来事がその警鐘であることにはかわりはない」云々という主張は、論理のすり替え以外の何ものでもない。現在の社会では兵器とテクノロジーの原理を同じくし軍事的に転用できるテクノロジーを用いていない民生品のほうがすくないだろう。一般人の生活もハイテク製品なしではなりたたない。たとえばパーソナルコンピュータは軍事的使用もできるのでそれが普及している国は周辺国家にとって軍事的脅威であるという論法もなりたつ。これを日本にとって危険であるというのならば少なくとも先進国はすべて危険である。
 こんな論をなす者は、北朝鮮の人間は一切のハイテク機器を使用するな、原始社会に戻れというのであろうか。いくら相手が通常の論理では予測できない行動をとる国だとしても、こちらまで没理性的な反応をするべきではない。結果として、この日本の主張は軍国主義化のあらわれだなどど北朝鮮から逆襲されても仕方のないような、外国に対する公的発言としてはきわめて高圧的なものになっている。

(1998/9/18)
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